さなぎのなかみ

鬱々とした日々のこと。

キッチンの話

以前付き合っていた人に、卵焼きがふわふわだね、これは中々作れるものじゃない、と褒められたことがあった。その日から私は卵焼きを作らなくなってしまった。

 

シンクの真後ろに洗濯機がある。部屋の構造上ここにしか置けないのだ。内見の時、近くにコインランドリーが数件あるのでそちらを利用されている方も多いですよ、と言われたのを覚えている。

 

キッチンスペースの真ん中に大きな白い箱。ここまで異物感があるとは思っても見なかった。動線は確保されているのに動きが制限されてしまう。毎朝角に体をぶつけている気がする。
料理を作り、居室に運び、椅子に座り、食事をする。ルーティンがひどく味気なくなる。

 

お昼は蕎麦にしよう、と思い湯を沸かす。蕎麦を茹でている六分半。認められてしまったから、ただそれだけのことなんだよな、と思う。
ざるに開けて水をきり、器に盛る。めんつゆをかけ、刻んだみょうがを添える。
このまま。このままシンクの前に座り込み、収納扉に背を凭れて蕎麦を啜りたい。座り込める程のスペースがない。

 

居室まで行かない、椅子にも座らない、地べたにへたり込んで冷たい床を感じながら口に運ぶ。行儀が悪いので人前ではやらない。作った場所から一歩も動かないで食事を終える。


この行為が案外好きだった。うまく説明できないけれど。
引っ越して、部屋の間取りが変わって初めてわかること。

 

「キッチン前に座り込んで料理を食べ」ることが己の一人暮らしの重要なファクターだったなどと気付けるわけがない。

一年くらいしたらまた引っ越す予定なので、次は十分な広さのあるキッチンを選ぼうと思う。