さなぎのなかみ

鬱々とした日々のこと。

知らない映画を知らないまま

ふとかすかな記憶がよみがえった。小さいころ、タイトルも内容も知らない映画を観せられそうになったことがある。視聴覚室での上映とかの学校行事ではなく、映画館で一般上映されている映画だ。

 

親は家族全員を連れて行こうとした。どこからその情報を仕入れたのかは知らないが、「観た方が良い」から始まったであろうそれは、いつのまにか「観なければいけないもの」に変わっていた。「どんな映画なの?」と訊いても「わからない」という答えが返ってきた。親も未だその作品を観ていなかった。

 

得体の知れないところに連れて行かれるような恐ろしさが少し、あった。

 

それは学校で年一回ある血液検査に似ていた。僕は毎回気持ち悪くなって吐いたり貧血で倒れたりしていたので、当日は地獄に行った方がマシなんじゃないかと思うほど。それでもギリギリまでは考えまいと平気の平左でその時間が来るまでは何ともないフリをしていた。一列に並んで自分の番が来るのを待つ段階に入って、やっと自覚する。もう逃げられない。

 

映画館に足を踏み入れるまではまだ大丈夫。恐怖がちらついていても見て見ぬフリはできる。行ってみたら何でもない(ま、映画だしね)可能性は残っている。心臓の鼓動が早くなるにはまだ早い。

 

結局、その映画を観ることはなかった。親が観にいって、これは子供には退屈だろうと判断を下したからだ。得体の知れない恐怖の影は、僕の髪を撫でただけで去って行った。