さなぎのなかみ

鬱々とした日々のこと。

ちゃんと働いてます

6日ぶりに外に出ると世間は終末を迎えたのかと思った。 そんな希望的観測を余所に只の悪天候なだけであり、外に出るのも本当はたったの2日ぶりなのであった。 肌寒くなってきたはずなのに冷房を入れている。暑くて、寒くて。 どうにも寝苦しくていけない。ひ…

赤信号で待つ人

アパートから駅までの道の途中に、信号のついた短い横断歩道がある。ボタンを押すと赤から青に変わるタイプのもので、デフォルトで赤く光っている。車通りは程々にあるが、見通しもよく道幅も狭いので、ほとんどの人がボタンを押さずに渡ってしまう。 仕事終…

キッチンの話

以前付き合っていた人に、卵焼きがふわふわだね、これは中々作れるものじゃない、と褒められたことがあった。その日から私は卵焼きを作らなくなってしまった。 シンクの真後ろに洗濯機がある。部屋の構造上ここにしか置けないのだ。内見の時、近くにコインラ…

親しくなった人は夢の中で私のことを悪く言う

連日の雨とぐずついた空で体調が悪い。エアコンの除湿機能が効いていない。少しでも暑いと、寒いと、湿度が高いと、悪夢を見る。 旋盤カッターで髪を切ろうとしている子供がいる。やめなさい、やめなさい、と何度も呼びかける。必死で止めているのに、聞いて…

剥製

昔ながらの旅館は入り口に剥製の置いてあることが多い。羽を広げた鷲や雉や山猫やら様々だ。同じ地球上に位置し同じ空間を共有しているのに剥製の纏う空気とこちらの纏う空気には確たる違いがある。ガラスケース一枚隔てただけでこんなにも違う。いくら見つ…

星新一という作家

鏡明『二十世紀から出てきたところだけれども、なんだか似たような気分』を読んだ。内容は、膨大な知識量によるSFについての考察や評論など。その中での一項、星新一についての話。 ここで著者は、星新一という作家について、語るべきことを持っていない、と…

天丼はギャグの基本ということですね

つばな『第七女子会彷徨』10巻、とても良く収斂されたラストだった。以下本書のオチについて触れています。 新城カズマ『サマー/タイム/トラベラー』に、こんなTT(タイムトラベル)分類表がある。 改変型 1……個人的な過去をやりなおそうとする話 過去へ戻…

ミミック

真っ赤な林檎の中身が黄色くて衝撃を受けた記憶はない。 何が入っているでしょーか、と差し出された卵を振って確かめた憶えもない。 見るものすべてが新鮮だった時期の、早く世界に適応しようと、とにかく目につくものを覚えなければいけなかった頃の、数あ…

他の著作は文庫化するのかな待ち遠しいんですけど

夢や希望、絆とか明るい未来なんて言葉を言われると、身構えてしまう。基本的にそういった陽性の語句ばかり出てくるような小説は読まないし、現実では、嘘でも口から言いたくはない。雪舟えま『地球の恋人たちの朝食』(上・下)では、そんな遠いところにあ…

失われた電池を求めて

今、何時だろう、ふと顔を上げてみる。リビングの壁に掛かった大きめの時計、針が指し示す時刻は8時35分。そんな筈はない。ご婦人宅にお邪魔したのは正午過ぎ、未だ2時間も経っていない気がするが。ケータイで確認する。16時。正確な時間が分かってホッとす…

すべてがSFになる

池澤春菜『SFのSは、ステキのS』を読む。SFのコラムなのでSFの話がメインなのだけれど、有名どころを齧っている程度のSF読みでも大変楽しめる。 メインはSFでありSFではない。これは、SF層がターゲットと見せかけて、本読み(多少なりともSF含む)かつ、オタ…

ハロウ

木地雅映子『氷の海のガレオン』を読み返す。 ふらっ、と指先の誘われるがままに本を開き、気付くと始めから終わりまで通読している。そんな風に、定期的に読み返す本の内の一冊。 木地さんの作品は、好きだけど、好きと言いたくない。好きよりも手許に置い…

固形じかけのオレンジ

小学生の頃の手作り石鹸。夏休みの自由研究か何か。 緑色の石鹸を作ろう、そう思い立ち、キッチンの棚を漁った。丁度使いかけの抹茶粉末があったので、それを使うことにした。白と緑のマーブル模様になるだろう。出来上がりのイメージはできていた。 作業を…

歌集 野口あや子『夏にふれる』

気に入ったのいくつか。 かあさんは食べさせたがるかあさんは(私に砂を)食べさせたがる Re:Re:を振り切るような出会いかたピアスの数がまた増えていた しゅっとでた切符のかどがよじれててわたしたちなにか間違えました? 青空に飛行機雲が刺さってるあれ…

隣人を愛せと私が言った、私の与り知らぬところで。

「さよなら、わたし。 さよなら、たましい。 もう二度と会うことはないでしょう」 伊藤計劃『ハーモニー』のコミカライズは、原作をちゃんと読み込んでるのが感じられてとても楽しめた。期待してなかった分、特に。キャラの表情にも引っかかるところがあって…

知らない映画を知らないまま

ふとかすかな記憶がよみがえった。小さいころ、タイトルも内容も知らない映画を観せられそうになったことがある。視聴覚室での上映とかの学校行事ではなく、映画館で一般上映されている映画だ。 親は家族全員を連れて行こうとした。どこからその情報を仕入れ…

クリハラタカシ『冬のUFO・夏の怪獣』

総天然色漫画。四コマだったり短編だったり。ナナロク社HPでいくつかの作品が読める。 「それはホントに? ウソに?」「なーん!」など妙に味のある言い回しがクセになる。 たとえば歌人や詩人は日常の些細な違和を切り取るのが上手いと聞いたことがある。…

イースターではない、白くて丸い、あの卵

蜂飼耳『空席日誌』より。 この本は、小説とエッセイ、日記を混ぜ合わせたような文から成る一冊。その中に「特別なたまご」という一遍がある。 出先で他者から卵(生)をひとつ、プレゼントされるというお話。 他の著者のエッセイでも何度かそういう出来事を…

夢の中で入るコンビニは品物が入荷されない

気付いたら店内で何かを買おうとしている。ふらふらと、何処かへ行くついでに寄ったようだ。目的地に着くまでの腹ごしらえのつもりなのか、パンや菓子の棚の前にいる。隙間が多く、透明のプラ板が目立つ。だいたいが、食べたいものが見つからなくて、そのま…

岡崎隼人『少女は踊る暗い腹の中踊る』

この作品、メフィスト賞を受賞したものの、文庫化はされず、作者も以降作品を発表していない。陰鬱で荒々しい空気は好みなのに、嘆かわしいことに高評価を聞かない。感想やレビューを当たってみると、ほぼ決まってこのような意味のことが書かれている。「舞…

古川日出男『沈黙/アビシニアン』

覚え書き程度。自分なりの解釈。ことばによる世界。 「十五年間など、人生とはだれも呼ばない。短すぎるし、若すぎる。あるいは幼すぎるのだろう。でも、生きるのは事実むずかしかった。生き延びるのは。」(p.392) 生き延びるために、ひとりの少女(エンマ)…